「睡眠」と働き方改革 睡眠不足はミスや事故、パワハラの原因に

働き方改革のポイント2 コラム

いろどり社会保険労務士事務所
代表・内川真彩美氏

選ばれる会社になる 働き方改革のポイント2

 前回、働き方改革が最終的に目指すものは、企業の売上げや利益の増加と企業の存続だと解説しました。今回は少し別の観点から考えてみます。

この記事のポイント

◎残業の多い企業は、集中力の落ちる時間にわざわざ割増賃金を払っていることになる

◎6時間以下の睡眠はストレスの溜まった状態を作り出し、怒りを抑える機能が低下してパワハラが増える結果に

◎企業の利益率にも影響することから、睡眠を経営戦略の1つに掲げる企業も増えている


人間の集中力が続くのは「起床後」13時間まで

 皆さんは今日何時に起きましたか。日々の睡眠時間はどのくらいでしょうか。
 実は最近、働き方改革のポイントとして「睡眠」が注目されています。

 慶應義塾大学の島津明人教授によると、「人間の脳が集中力を発揮できるのは朝目覚めてから13時間以内で、集中力の切れた脳は酒気帯びと同程度、さらに起床後15時間を過ぎた脳は酒酔い運転と同じ位の集中力しか保てない」そうです。

 さて、皆さんは今日、何時頃まで集中力が保てるでしょうか。

 ポイントは「仕事を始めてから」13時間以内ではなく、「起床後」13時間以内という点です。
 起きた瞬間に始業となる方はいないでしょうから、集中して働ける時間は13時間より確実に短くなります。

 集中力が途切れれば、ミスや事故のリスクは上がりますし、仕事の効率も悪くなります。
 ワシントン州立大学の実験では、6時間睡眠が2週間続くと、2日間徹夜したのと同じ能力になるとの結果も出ています。しかも、自分の能力が落ちていることを本人は自覚していないそうです。

 企業は1日8時間、週40時間を超えた労働には割増賃金を支払いますが、この研究結果を見ると、脳の機能が低くなる時間帯に、企業はわざわざ通常より高い賃金を支払っていることになります。

  これを皆さんはどう感じるでしょうか。

睡眠不足でパワハラが増える!? 認知症リスクも

 また、睡眠不足はパワハラの温床にもなります。

 労働科学研究所の佐々木司・慢性疲労研究センター長によると、「人間は一晩眠ったとして、肉体の疲労は眠りの前半に回復し、ストレスは後半に解消する」そうです。

 ここでの前半は6時間だそうで、つまり、6時間以下の睡眠の場合、肉体は回復するもののストレスは溜まったまま翌日を迎えることになります。

 別の研究でも、睡眠不足は怒りを発生させる機能を活性化させ、怒りを抑える機能を低下させることが明らかになっています。
 近年パワハラ関連のトラブルも増えており、この結果も見逃せません。

 さらに、睡眠時間が6時間以下だと、将来の認知症リスクが3割増すとの研究結果もあります。

 ここまで様々な情報を紹介しましたが、朝が早い卸売市場関係者の皆さんにとっては、気になる内容もあったのではないでしょうか。

従業員の睡眠時間は企業の利益率にも影響

 最後にもう1つ興味深いのが、従業員の睡眠と企業の利益率の関係です。

 慶応義塾大学の山本勲教授によると、「睡眠時間の長さや質の良さは利益率を高める効果を持ち」、「睡眠時間が上位20%の企業は下位20%の企業よりも利益率が2%程度高い」そうです。

 これらの研究結果は近年注目されており、睡眠を経営戦略の1つに掲げる企業も増えています。
 「長時間労働自体が悪」なのではなく、「長時間労働により睡眠不足になることが悪」、との捉え方も広がっています。

 長時間労働の削減は、睡眠時間の増加へと繋がり、それが集中力と効率の向上、パワハラの撲滅、将来の認知症発症率の低下、利益率の向上に繋がることがわかります。
 前回紹介した、働き方改革が目指すものにも繋がりますね。

 当然、従業員が帰宅した後の時間の使い方を企業は命令できません。
 しかし、先の山本教授の研究では、従業員の睡眠は働き方の影響を受けやすいと結論付けています。
 残業が多ければ睡眠に充てられる時間は減るため、当然の結論とも言えます。

 このように、働き方改革を睡眠という観点から見ると、また違った捉え方ができるのではないでしょうか。

 次回は、働き方改革の最初の一歩である、現状分析の方法やポイントを解説します。

筆者紹介 いろどり社会保険労務士事務所 代表内川真彩美氏

内川真彩美氏
内川真彩美氏

特定社会保険労務士。約8年半、IT企業でシステム開発に従事した後、社会保険労務士として開業。現在は前職の経験を活かしながら、企業の制度設計や働きやすい組織作りの支援を行っている。企業ウェブサイトや雑誌などへの執筆、講演多数。

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※この特集は、「やっちゃばジョブ」を運営する農経新聞社の『農経新聞』掲載記事を再構成したものです。

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